2009.06.04

守秘義務を考える

秘密には,大きく分けて,私人間の秘密と国家の秘密があります。

プライバシーというと当然私人間の秘密に関連することがらであり,プライバシーを保護する義務は,国家に対する義務ではありません。
それでは,この頃大きく世間を賑わせている裁判員制度が裁判員に課する守秘義務は,果たして私人の秘密を守るものであるのか,それとも国家に対する守秘義務であるのか?
裁判所の裁判員制度ホームページ(http://www.saibanin.courts.go.jp/)の 「裁判員制度Q&A 」によれば,守秘義務の対象について,裁判員として知り得た被害者などのプライバシーに関わる事項の他,「評議の秘密」にも守秘義務が及ぶとされ,「評議の秘密」の内容について,

評議の秘密には,例えば,どのような過程を経て結論に達したのかということ(評議の経過),裁判員や裁判官がどのような意見を述べたかということ,その意見を支持した意見の数や反対した意見の数,評決の際の多数決の人数が含まれていると考えられています。

と説明されています。つまり,評議の過程や評議の中で述べられた意見について,裁判員経験者は終生語ってはならないのです。もっと具体的に言えば,「他の皆は有罪だと言ったが自分はそうは思わなかった」「私は死刑間違いなしと思ったのに,裁判官は反対意見だった」などと,後日議論(裁判批判)する事は罰則をもって禁じられる,ということなのです。

他方,裁判員選任手続の過程では,守秘義務を課されていない裁判員候補者に,性犯罪被害者の個人情報が開示されることになるという問題が指摘されています。( 裁判員候補者に守秘義務なしで「性犯罪」被害者の実名が - 保坂展人のどこどこ日記

さて,裁判員に課された守秘義務は,誰の秘密を守るためにあるのか?

<追記>
6月4日付 asahi.com の記事によれば,裁判員候補者の名簿を被害者に開示するという対策を講じるとの事。たしかに被害者の個人情報を裁判員候補者に開示しなくても済むかもしれませんが,選任された裁判員に個人情報が提供される事を被害者が拒否する手段は,今のところありません。

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2009.06.03

入管法を変えるのか,住民基本台帳法を変えるのか

一部を除いて,問題意識を持った議論がないようですが,出入国管理及び難民認定法(入管法)の改定が間近に迫っています。
外国籍の住民も住民基本台帳に載る,というと聞こえが良いようですが,ICチップ搭載の在留カードを外国籍住民全員に持たせて常時携帯義務を課し,外国籍住民の各種情報を一括管理することに主眼があり,同時に住民基本台帳法の改定も行われます。
この「在留カード」は,日本人で言えば,現在,希望者に対してのみ発行されている「住基カード」に相当するわけですが,今回の入管法改正で,住基ネット制度の未来が見えるように思います。皮肉を込めて「内外人平等がようやく実現する」という声もありますが。

  • 参考:改定入管法・入管特例法が衆院法務委採決の危機 - 保坂展人のどこどこ日記
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    2008.12.22

    刑罰の福祉化と福祉の刑罰化

    最近,私は,機会がある毎に「福祉と刑罰が逆転し始めた」と言っています。例えば今日も sahi.com から次のような記事が配信されていました。

    三重県伊勢市の公用車を傷つけたとして、伊勢署は22日、住所不定、無職A容疑者(36)を器物損壊容疑で逮捕した、と発表した。A容疑者は「悪さをすれば逮捕され、食事にありつけると思った」と供述していると同署は説明している。(asahi.com 12/22 付記事より:ただし容疑者名は当方の判断で伏せました。引用元の記事では実名で報道されています)
    36歳では,生活保護を受けようとしても何か特別な事情でもない限り,「若いんだから働け」と追い返されるのは目に見えています。「食事にありつけるから」という理由で罪を犯した者に刑罰の名のもとに食事を与えては,犯罪はなくならない,というよりむしろ犯罪を助長するだけでしょう。そうは言っても,釈放されても仕事がなければまた戻ってくるのは目に見えています。釈放された受刑者の面倒を見るのは,結局民間の保護司さんの仕事になりますが,これは実に苦労の多い,本当に頭の下がる仕事です。

    それにしてもシャバよりムショの方が暮らしやすい,というのではまさに世も末です。

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    2008.11.28

    いわゆる「偽装認知」について

    先の国籍法違憲判決を受けた同法改正論議の中で,「偽装認知」ということを懸念する向きが少なくないようです。しかし,結論から言って,私は,現在の入管行政の運用状況も考慮するならば,「偽装認知」で入国する者があふれるような事態は起きないだろう,と考えています。
    第一に,非嫡出子の認知は,取り消すことができない不可逆的な効果を持つ(民法785条),という点で,いざとなったら離婚・離縁手続をすれば済む婚姻や養子縁組とは根本的に異なっています。
    第二に,最高裁は,過去に「認知により法律上の親子関係が発生するには血縁関係にある父又は母においてその子を認知することを要」する,との判断をしています(昭和50年9月30日・最高裁第三小法廷判決,家裁月報28巻4号81ページ)が,その判示内容から推し量ると,いわゆる「偽装認知」ではそもそも認知の効果は生じませんから,国籍取得の効果もないことになるはずです。
    第三に,現在の入管行政における審査の実情から推察するに,在留資格等の審査上,認知届が出ているからフリーパスなどということにはならないはずであり,婚外子が出生するに至った事情や認知に至った背景まで事細かに調査されることになるであろうと予想されます。つまり,認知そのものは市区町村役所の窓口で済むとしても,実際に認知された婚外子とその母のための旅券,査証の発給,入国審査や在留資格の認定の段階で,現在の在留特別許可同様にかなり厳しい審査が行われるだろう,と思われます。

    「偽装」で入国が認められる一部の人々がありうることよりも,現実に家族としての実体があるのに日本での在留が認められない,一家離散の悲劇をどうなくするか,の方がより重要な課題ではないでしょうか。

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    2008.06.16

    ハーグ子奪取条約批准への動き

    日弁連の6月13日付「日弁連 - 国連人権理事会本会議におけるUPR審査に対する日本政府の対応についての日弁連コメント」によると,日本政府は,国連人権理事会の勧告を受けて,ハーグ子奪取条約の批准を行う旨の表明をしたとのこと。
    いずれ日本が上記ハーグ条約を批准する日が来そうです。
    さてそうなると,国際離婚の破綻に伴って子を連れ帰った場合,それが親権者の権利を侵害したと見做されるときには子を元の居住国に戻す手続が定められることになるはずです。この場合「親権者の権利」と「子の福祉」とでは,文句なく後者が優先すると私は思っていますが,果たしてどうなるでしょうか?

    婚姻の破綻に伴って子を国に連れて帰るのは,みなそれぞれの事情のもとで思い詰めた結果であることが多く,単純に子どもを連れ帰ったことをもってして「奪取」「誘拐」などとは非難できないケースが大半です。

    ハーグ子奪取条約の批准と同時に,弱者である子ども・女性の保護を徹底すべきであり,そうでなければむしろ批准しない方がいいくらいだと私は考えています。

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    婚外子の国籍取得の届出について

    最高裁の違憲判決の後,14日までの間に,婚外子の国籍取得届出は3件ほどあった,という報道がなされているようです(「婚外子」の国籍取得、最高裁判決後に届け出が3件(読売新聞) - Yahoo!ニュース)。
    当事務所では6月4日の違憲判決の直前に,女性の待婚期間中(いわゆる300日規定)のため,日本での婚姻届ができず,子が前婚の夫の子の嫡出子推定を受けてしまうケースを扱いました。そして,わずか10日間だけ区切って数を公表することにどんな意味があるのか,という疑問もあります。

    それと同時に,届出は住所を管轄する「法務局」に提出する必要がありますが,法務局なんてどこにあるかさえ知らない,という人もあるのでは?また,婚外子を生物学上の父に認知してもらうことが難しいケースもあるでしょうから,その場合には認知を求める手続が必要になります。いずれにせよ,認知による国籍取得には20歳未満という条件があります。なるべく早く,国籍問題に詳しい専門家にご相談することをお勧めします。

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    2008.06.13

    国際離婚の管轄に関する EU の新規則案

    asahi.com の記事によれば,EU では域内の国際離婚の裁判管轄についての新規則案が採択される見通しとのこと。

    現在は大別して2人の出身国、現居住国、主に結婚生活を送った国——のいずれかの離婚法が適用され、国籍が違う夫婦が離婚するとき「どこに申し立てすべきかわからない」「時間と手間が予測できない」などの不満が出ていた。
    新規則案は「2人が合意した国の法律」を原則に、合意がない場合は「2人に最も関係のある国」の法律を用いることにした。

    日本の裁判所が採っている被告住所地主義を採らず,EU の新規則案では,合意管轄と密接関係地の管轄権を認めている点が注目されます。実は当事務所でも国際離婚の相談はここ1,2年で急激に増えています。昭和39年の最高裁判例以来,被告住所地主義(被告の住所地の国に国際裁判管轄がある)が採用されてきましたが,当時は国際離婚といっても日本人と在日朝鮮人との離婚が大多数であったでしょうが,今は全く事情が違っています。当事務所でも欧州,米国やもちろん,中東,アジア・大洋州諸国など,実にさまざまな国籍の方々に関する相談があります。
    これからの日本での国際離婚の実務の動向を考える上でも,EU の新規則案は注目に値すると思います。

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    2008.06.05

    国籍法違憲判決(その2)

    国籍確認請求事件判決
    裁判所ホームページに判決文が掲載されています。

    ちなみに,昨日のエントリーで私が書いた,認知の遡及効との関連性について,田原睦夫裁判官が補足意見の中で触れていますが,法的安定性という観点から国籍の遡及的取得という考えには消極的な意見のようです。
    ところで,上記田原裁判官の補足意見は,義務教育や社会保障が外国人に及んでおらず,運用上日本国民に準じた取扱がなされているに過ぎないことを指摘しています。逆説的に言えば,国籍の有無が直ちにそのような教育を受ける権利や社会保障を受ける権利の有無に直接に結びつかなかったとしたら,国籍がいわば人の「氏」のような存在に過ぎなかったとしたら,それは単に人を区別するものに過ぎず平等原則違反の問題は生じなかった,ということが言えます。
    そうすると,国籍取得の幅を広げることは(もちろん積極的に評価すべきですが),実は根本的な問題解決にはなっていないのではないのではないか,という問題意識を持たざるを得ません。

    さて,国側が国籍の取得のために父母の婚姻が必要であるとしていた理屈として,「仮装認知」という問題が挙げられています。確かに「ためにする」認知はあり得ますし,それをどう扱うか,という問題は避けて通ることはできません。とくに認知の場合,婚姻の場合と異なって,誰がどのような目的で認知したとしても,認知された子には何の責任もありませんから,そう簡単に無効というわけにはいきません(民法785条は認知の取消を禁じています)。
    あるいはこの問題も,国籍の有無で大きく取扱が異なるという現状を変えて,国籍取得へのインセンティブを減ずることによってしか解決しないのではないか,という気がしています。

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    2008.06.04

    国籍法違憲判決

    本日,国籍法3条の規定について,最高裁は違憲の判断を下したとのことです(参照:「婚外子 国籍法規定は違憲 国に法改正迫る 最高裁大法廷判決」MSN産経ニュース)。
    詳細は判決文を見て機会があれば論評しますが,そもそも国籍法2条は出生の時に父又は母が日本国民である,あるいは出生前に死亡した父が死亡時に日本国民であれば,子は出生により当然に日本国籍を取得する(血統主義)としている以上,本来であれば,出生後に父が認知して父子関係が生じた時には,出生時に遡って認知の効力は及ぶ(民法784条)のですから,子は,当然日本国籍を取得することになるはずであって,それにも関わらず国籍法3条が,準正子について国籍取得の届出を要求していることはそれ自体,血統主義の原則から大きく外れたものであったと言えます。(その意味で,今回の違憲判決を受けて国籍法3条を削除すれば,法改正としてはそれで十分なのではないかと私は思っていますが。)
    さて,今回の判断により日本国籍を認められる人々は少なくはないはずですが,それらの方々の言語や民族文化を十分尊重しつつ,日本社会に受け入れる体制を整えていくことも,今後重要になっていくでしょう。

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    2008.05.16

    渉外事件における書面の翻訳費用

    国境をまたぐ訴訟では,必ず文書の翻訳が必要になります。しかし翻訳に必要な費用は,決してバカにならない金額です。法廷通訳であれば裁判所が通訳人を選任するのでその費用は訴訟費用に計上され,資力のない当事者は訴訟救助を受けることもできます。ところが書面の翻訳は,当事者が翻訳文を独自に作成して裁判所に提出する扱いになっているので,当事者の負担となり,訴訟救助の対象にもならない。
    従来は渉外事件は国際的にビジネスを展開する大企業の専売特許のように思われてきた節があって,もちろんそういう資力のある当事者なら数十万の翻訳料など大した金額ではないでしょう。しかし例えば海外で夫から暴力を受けて命からがら逃げてきた,というケースの離婚請求だって立派な渉外家事事件です。そんなケースでは翻訳費用をどうしたら良いのか本当に困ることが,多々あります。
    そして,訴訟書面の翻訳文の質を高めることは,日本の訴訟手続への国際的信頼を確保するためにも重要です。しかし当事者が提出する翻訳文には,正確性の担保はまったくありません。法廷通訳と同じように,裁判所の選任した翻訳者による訴訟書面の翻訳はできないのでしょうか?

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