2009.10.08

刑事罰の目的

今朝は台風もそうですが,Winny 事件の逆転無罪が大きな話題を呼んでいるようですので,雑感を少々。

私は,詳しい技術も内容も知らない門外漢ですが,本日の高裁判決は刑法理論をすっきりと筋を通しているように見え,好印象です。そもそも刑法は,すでに起きてしまった犯罪という結果に対して,個別に罰を科して犯罪者の矯正(再犯防止)を目指すもの。一罰百戒という言葉もあり,いわゆる一般予防(検察官は好きですね。論告でよく聞きます。)ということも良く言われますが,それを強調すると刑事法廷が立法の場に踏み込むことになってしまう。新しい類型の行為を,従来から存在する犯罪の類型に組み入れて裁くことで一罰百戒,を目的とした強制捜査( Winny 事件に限らずときどき見かけるのですが)は,実は立法権の侵害であり,民主主義とは相容れないということを,捜査機関は肝に銘じてもらいたい。

そういう意味では,著作権侵害を防ぐということは無論大切だけれども,その先鋒を警察などの捜査機関に委ねるのは,刑法の目的を超えるだろうし,刑事手続による事後的個別的な刑罰の執行が,著作権の保護のために十分有効であるとも思えません。

いずれにせよ,ご本人も弁護団の諸氏もみごとな奮闘でした。心からの敬意を表します。

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2009.08.25

高校生の事務所訪問

先週,当事務所に都内私立高校の学生さんがいらっしゃいました。8年間の在外生活経験の持主で,当事務所のように,在日外国人との接点の多い弁護士の活動に関心があるご様子。「日本の移民労働者の現状と問題点は?」などの突っ込んだ質問の数々を受けて,私自身,新鮮な刺激を受けた次第です。
昨日の高校生もそうですが,若者は,大人たちが想像している以上に,社会や政治に強い関心を持っていますし,時には辛辣な批判も向けてきます。その新鮮な感性を温かく包容する社会でありたいものです。

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2009.08.17

「ヘイト・スピーチ」について

このところ,「情報流通促進計画」で,具体的な事件についての問題提起がなされていたり,前田朗さんが,Blog でこのところヘイトクライムに関する論述を連載されていたりする。先日は,この問題に関する集会も開催されていた(参考:日刊ベリタ : 記事 : 「ヘイトスピーチは許せない。『行動する保守!?』とどう向き合うか。」 当事者を交えた活発な意見交換も)が,日本国憲法の下でも,このヘイト・スピーチというものと表現の自由との関わりを議論しなければならない時が来ているように思う。

大事な問題ではあるが,ここではいくつかの論点を指摘するにとどめておきたい。

  • 「ヘイト・スピーチ」をどう定義するか。

    個別の問題についてさまざまな意見や立場はあり得るし,それが民主主義の基礎である。ある言論活動がヘイト・スピーチであるかどうかを考える場合,異なる意見や存在を許容するかどうか,がひとつの分水嶺と思う。平穏な集会を暴力的に妨害する,あるいは行政当局に圧力をかけて会場使用を止めさせたり,後援を取り消させたりするなどは,もはや他者の言論の妨害であって,表現の自由の範疇を逸脱する行為であり,現行憲法,刑法のもとでも十分犯罪が成立し得る。ひとつの私案としては,異なる意見(あるいは政治的立場,民族,人種など)に対し,寛容な態度を取っているのかどうか,をひとつのメルクマールとすべきではないだろうか。

  • 「ヘイト」に内在する特定対象者への攻撃性

    上記が,客観的態様からの定義とすれば,「ヘイト・スピーチ」の内容に着目した定義も行う必要がある。これは言論の内容の問題になるので慎重に検討しなければならないが,「ヘイト (Hate : 憎しみ,嫌悪)」という概念自体が,その対象たる人々に対する攻撃性を内在していることに注目しなければならないと思う。したがって「ヘイト・スピーチ」は単なる平穏かつ一般的な意見表明に留まらず,特定対象者に対するあからさまな攻撃的行動を指向する傾向を持つのである。

  • ヘイト・スピーチに対する警察・行政当局のあり方

    残念ながら多くの場合,ヘイト・スピーチに対し,警察当局はおそろしく寛大であり,行政当局は極めて小心である。これがまたヘイト・スピーチを唱える者たちに標的とした集会の中止や自治体による後援の撤回などの「成果」を与え,一層彼らを助長している。これは民事介入暴力の問題に良く似ている。そう,ヘイト・スピーチが暴力を伴うとすれば,それはまさしく民事介入暴力といって良い。

  • ヘイト・スピーチに直面した人々は,巻き込まれて共犯化する

    いじめを見て見ぬふりをする子どもが共犯者として巻き込まれていくように,ヘイト・スピーチは,直面した人々をいやおうなく共犯者として巻き込む圧力を持つ。言論の自由の仮面をつけて言論の自由を抹殺してゆくのである。

  • 参考:
  • 前田朗Blog2009.8の過去記事
  • 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)関連エントリ
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    2009.07.28

    民法772条と公正証書原本等不実記載

    婚姻中の女性の子は,真の父親が誰であろうとも,民法772条のいわゆる嫡出推定の規定があるために,夫の子として記載されます。夫の戸籍に記載されないようにするには,健康保険に加入できないなど,さまざまな不利益を覚悟のうえで,あえて出生届を行わない以外に方法がないのが現状です。
    ところが最近扱った偽装結婚案件で,捜査当局が,子が真実の父でない戸籍上の夫の戸籍に記載されたことをもってして,「公正証書原本等不実記載」だなどと言って捜査活動を行い,子どもの血液採取までしたのを目の当たりにして,さすがに驚いてしまった。つまり,子が戸籍上の夫の戸籍に入ったのは虚偽の出生届のゆえだ,というのが捜査当局の言い分なのですが,それはどう考えても無理がある。出生届に戸籍上の父以外の男性の名前を書いて窓口に持っていってもおそらくは父親欄を白紙にすることを求められるのが関の山だろうし,がんばって真実の父の名前を記載したまま出生届を提出しても,やはり戸籍事務としては戸籍上の夫の戸籍にいったんは記載せざるを得ない。
    つまり「虚偽」の状態が生じるのは民法772条の推定規定のためであって,出生届の記載が虚偽であったからではない。ひいては,戸籍上の記載は,単に嫡出の推定が働いていることを意味するに過ぎない,と考えれば,そもそもそれが「虚偽」とも言えない。
    驚いて私が検察庁に抗議して約2週間後,案の定「立件は見送る」との連絡があったのでホッとしているのですが,素知らぬふりをしてそのまま起訴させて,後から「無罪判決を取った!」と威張る方法もあったのかな,などと少しばかり後悔している次第です。

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    2009.07.26

    フィリピン国籍未成年者と日本人,フィリピン人夫妻の特別養子縁組

    昨年から当事務所で扱っていた標記の案件は,養育状況も全く問題がなく,比較的簡単と思われたのですが,思わずてこずってしまい,先日,ようやく一件落着の運びとなりました。

    なぜそんなにてこずったのか,というと,ひとつは,フィリピンの養子縁組法は,しばらく前に改正され,日本の特別養子のように実親との法的関係を残さない完全養子が原則になっているのですが,裁判所で比較的権威がある渉外養子に関する研究文献に,実はその改正法が反映されていなかったのです(!!)。
    そして,もうひとつ,実はフィリピン国籍の子を特別養子に迎えた過去の事例が,どうも見当たらないらしいのです。
    最終的には,裁判官の疑問点について当事務所からひとつひとつ関連資料を提示し疑問を解いていく中でめでたく許可審判が出たのですが,裁判所は今一つ自信が持てないのか,今のところ審判は公にされていないようです。

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    2009.06.04

    守秘義務を考える

    秘密には,大きく分けて,私人間の秘密と国家の秘密があります。

    プライバシーというと当然私人間の秘密に関連することがらであり,プライバシーを保護する義務は,国家に対する義務ではありません。
    それでは,この頃大きく世間を賑わせている裁判員制度が裁判員に課する守秘義務は,果たして私人の秘密を守るものであるのか,それとも国家に対する守秘義務であるのか?
    裁判所の裁判員制度ホームページ(http://www.saibanin.courts.go.jp/)の 「裁判員制度Q&A 」によれば,守秘義務の対象について,裁判員として知り得た被害者などのプライバシーに関わる事項の他,「評議の秘密」にも守秘義務が及ぶとされ,「評議の秘密」の内容について,

    評議の秘密には,例えば,どのような過程を経て結論に達したのかということ(評議の経過),裁判員や裁判官がどのような意見を述べたかということ,その意見を支持した意見の数や反対した意見の数,評決の際の多数決の人数が含まれていると考えられています。

    と説明されています。つまり,評議の過程や評議の中で述べられた意見について,裁判員経験者は終生語ってはならないのです。もっと具体的に言えば,「他の皆は有罪だと言ったが自分はそうは思わなかった」「私は死刑間違いなしと思ったのに,裁判官は反対意見だった」などと,後日議論(裁判批判)する事は罰則をもって禁じられる,ということなのです。

    他方,裁判員選任手続の過程では,守秘義務を課されていない裁判員候補者に,性犯罪被害者の個人情報が開示されることになるという問題が指摘されています。( 裁判員候補者に守秘義務なしで「性犯罪」被害者の実名が - 保坂展人のどこどこ日記

    さて,裁判員に課された守秘義務は,誰の秘密を守るためにあるのか?

    <追記>
    6月4日付 asahi.com の記事によれば,裁判員候補者の名簿を被害者に開示するという対策を講じるとの事。たしかに被害者の個人情報を裁判員候補者に開示しなくても済むかもしれませんが,選任された裁判員に個人情報が提供される事を被害者が拒否する手段は,今のところありません。

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    2009.06.03

    入管法を変えるのか,住民基本台帳法を変えるのか

    一部を除いて,問題意識を持った議論がないようですが,出入国管理及び難民認定法(入管法)の改定が間近に迫っています。
    外国籍の住民も住民基本台帳に載る,というと聞こえが良いようですが,ICチップ搭載の在留カードを外国籍住民全員に持たせて常時携帯義務を課し,外国籍住民の各種情報を一括管理することに主眼があり,同時に住民基本台帳法の改定も行われます。
    この「在留カード」は,日本人で言えば,現在,希望者に対してのみ発行されている「住基カード」に相当するわけですが,今回の入管法改正で,住基ネット制度の未来が見えるように思います。皮肉を込めて「内外人平等がようやく実現する」という声もありますが。

  • 参考:改定入管法・入管特例法が衆院法務委採決の危機 - 保坂展人のどこどこ日記
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    2008.12.22

    刑罰の福祉化と福祉の刑罰化

    最近,私は,機会がある毎に「福祉と刑罰が逆転し始めた」と言っています。例えば今日も sahi.com から次のような記事が配信されていました。

    三重県伊勢市の公用車を傷つけたとして、伊勢署は22日、住所不定、無職A容疑者(36)を器物損壊容疑で逮捕した、と発表した。A容疑者は「悪さをすれば逮捕され、食事にありつけると思った」と供述していると同署は説明している。(asahi.com 12/22 付記事より:ただし容疑者名は当方の判断で伏せました。引用元の記事では実名で報道されています)
    36歳では,生活保護を受けようとしても何か特別な事情でもない限り,「若いんだから働け」と追い返されるのは目に見えています。「食事にありつけるから」という理由で罪を犯した者に刑罰の名のもとに食事を与えては,犯罪はなくならない,というよりむしろ犯罪を助長するだけでしょう。そうは言っても,釈放されても仕事がなければまた戻ってくるのは目に見えています。釈放された受刑者の面倒を見るのは,結局民間の保護司さんの仕事になりますが,これは実に苦労の多い,本当に頭の下がる仕事です。

    それにしてもシャバよりムショの方が暮らしやすい,というのではまさに世も末です。

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    2008.11.28

    いわゆる「偽装認知」について

    先の国籍法違憲判決を受けた同法改正論議の中で,「偽装認知」ということを懸念する向きが少なくないようです。しかし,結論から言って,私は,現在の入管行政の運用状況も考慮するならば,「偽装認知」で入国する者があふれるような事態は起きないだろう,と考えています。
    第一に,非嫡出子の認知は,取り消すことができない不可逆的な効果を持つ(民法785条),という点で,いざとなったら離婚・離縁手続をすれば済む婚姻や養子縁組とは根本的に異なっています。
    第二に,最高裁は,過去に「認知により法律上の親子関係が発生するには血縁関係にある父又は母においてその子を認知することを要」する,との判断をしています(昭和50年9月30日・最高裁第三小法廷判決,家裁月報28巻4号81ページ)が,その判示内容から推し量ると,いわゆる「偽装認知」ではそもそも認知の効果は生じませんから,国籍取得の効果もないことになるはずです。
    第三に,現在の入管行政における審査の実情から推察するに,在留資格等の審査上,認知届が出ているからフリーパスなどということにはならないはずであり,婚外子が出生するに至った事情や認知に至った背景まで事細かに調査されることになるであろうと予想されます。つまり,認知そのものは市区町村役所の窓口で済むとしても,実際に認知された婚外子とその母のための旅券,査証の発給,入国審査や在留資格の認定の段階で,現在の在留特別許可同様にかなり厳しい審査が行われるだろう,と思われます。

    「偽装」で入国が認められる一部の人々がありうることよりも,現実に家族としての実体があるのに日本での在留が認められない,一家離散の悲劇をどうなくするか,の方がより重要な課題ではないでしょうか。

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    2008.06.16

    ハーグ子奪取条約批准への動き

    日弁連の6月13日付「日弁連 - 国連人権理事会本会議におけるUPR審査に対する日本政府の対応についての日弁連コメント」によると,日本政府は,国連人権理事会の勧告を受けて,ハーグ子奪取条約の批准を行う旨の表明をしたとのこと。
    いずれ日本が上記ハーグ条約を批准する日が来そうです。
    さてそうなると,国際離婚の破綻に伴って子を連れ帰った場合,それが親権者の権利を侵害したと見做されるときには子を元の居住国に戻す手続が定められることになるはずです。この場合「親権者の権利」と「子の福祉」とでは,文句なく後者が優先すると私は思っていますが,果たしてどうなるでしょうか?

    婚姻の破綻に伴って子を国に連れて帰るのは,みなそれぞれの事情のもとで思い詰めた結果であることが多く,単純に子どもを連れ帰ったことをもってして「奪取」「誘拐」などとは非難できないケースが大半です。

    ハーグ子奪取条約の批准と同時に,弱者である子ども・女性の保護を徹底すべきであり,そうでなければむしろ批准しない方がいいくらいだと私は考えています。

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